第6回「民事再生法申請」 | たんす屋創業者 中村健一の回顧録

自分の人生に於いて、痛恨のできごとは今までに2回ありました。

その内の2回目は、2020年4月20日、東京地裁に民事再生法の申請をしたことです。

2019年の秋ごろから、メインバンクのご指導で、東京都中小企業支援協議会のお世話になって事業の立て直しに取り組んでいました。1月に事業再生でお世話になっていた弁護士の先生から、その当時お取引関係のないメジャーな大手銀行をご紹介頂き、「DIPファイナンス」の提案を受けます。結果として当時既存の金融機関からニューマネーが出ない状況下、そのスキームでは売掛金を担保に新規の融資枠を3億円設定して頂きました。当時売上は厳しい環境ではありましたが、それでも年商ベースで30億円代の後半を維持しておりましたので、3億円の設定が可能であったのです。

DIPファイナンスは、通常の融資と異なり経営再建の途上にある企業が事業再生のために緊急的に受ける融資で、通常の融資と比較して金利が高いことと、優先的な債務扱いとなり、他の債務よりも返済が優先されます。1月に先ずは、1億円の融資を受けることで、当面の資金繰りは目鼻がついて一息ついた状況に。

数年前に一度、同じ様にメインバンクのご指導で東京都中小企業支援協議会にお世話になった過去があり、その時は事業再生計画を作成し、翌期に黒字化でき、金融機関ともお取引の正常化を果たせました。協議会でお世話になった担当者の方も偶然同じ方で、弊社の事情もよく理解して頂いておりましたので、少し安心してご指導を頂戴することに。

弁護士先生たちの事業再生のシナリオは、自力再生と、10数億円の借入金がありましたので、私的整理(ADR)で金融機関の債権を整理してスポンサー企業の傘下で身軽になって企業としての収益力を再構築するものです。私の中では、3億円の融資枠を確保できれば、自力再生のシナリオもあるという認識でしたが、DIPファイナンスが決まるまで、並行して同時にスポンサー企業の模索も行っておりました。

結果的には、和装関連の上場企業の一社から内々に事業譲渡を前向きにご検討いただけるとのご回答を頂戴することに。私もそれまで、お取引先の百貨店などで、このスキームを使って再生に成功された事例を目の当たりにしておりました。

横須賀のさいか屋さんも私の記憶の中ではこのスキームでしたが、取引先には一切の資金的な迷惑無く、京急電鉄がスポンサーになられます。たんす屋は、さいか屋さんとは、横須賀の本店をはじめ、川崎店、藤沢店、更には、町田の若い人向けの商業施設ジョルナにTOKYO 135°と4店舗出店しておりました。その後、さいか屋さんの経営があまり良くないという話を複数の方からお聞きし、店舗の移転や改装のお話をきっかけに横須賀店と町田店を撤退して、川崎店と藤沢店の2店舗へと減らすことに。2009年にさいか屋さんが私的整理を発表されましたが、川崎店と藤沢店の営業は通常通りでしたし、売掛金のお支払も1日も1円も滞りなく入金され、安心したことを覚えています。

その様な状況下、2020年の2月4日に横浜港に寄港していた、ダイヤモンドプリンセス号の乗客から、コロナウイルスの感染者が見つかりました。年明けから、コロナウイルスのニュースはもちろん見ています。2019年の末に中国の武漢で感染者が発見されましたが、それまでのサーズだマーズだと大騒ぎしていた感染症と同様のレベルで、日本には大きな影響はないと高をくくっていました。ダイヤモンドプリンセス号の大騒ぎのなかでも、コロナの影響は限定的なものだと思っていたのです。実際には3月中旬に有楽町の交通会館で開催した本部催事も開催すら賛否のある中、大量のマスクを準備して予定通り開催したところ、前年比半分くらいになってしまうとの予測もありましたが、前年比95%をキープして予想に反して大盛会でした。

世の中の空気が一変した事件が、3月29日の志村けんさんのコロナによる急死でしょう。4月7日には、東京都をはじめ首都圏、京阪神などで一斉に新型コロナウイルス感染症対策で緊急事態宣言が発表されました。翌日8日に準備で、たんす屋最大の百貨店催事池袋東部百貨店での「春のたんす屋祭り」8,000万円予算の催事の中止の知らせが入ります。この催事を皮切りに新宿小田急百貨店3,000万円まで、大型百貨店催事が5本次々と中止が決定しました。更に追い打ちをかける様に多くの商業施設が休業を決定しました。結果的に4月の売上は前年比マイナス95%で終わることに。

約40年を越して商売をしてきましたが、前年比5%の売上はまったく異次元の体験でした。緊急事態宣言が発表された時点で、弊社をリードして頂いていた弁護士の先生から、4月中の民事再生法の適用申請の提案がなされます。これは衝撃的でした。先生方のロジックは、この機会を逃せば急激に売掛金が消滅し、売掛金を担保に融資をしてくれた金融機関にも迷惑が及ぶリスクと、労働債権をはじめとする優先債権も支払えない可能性があるとのこと。しかしながらこの判断をすれば、FCのオーナー様、お取引先様にご迷惑が及ぶことは明確でした。時間の猶予もない中、あまりの急展開の中、最終的な判断をくだすことになります。まさに断腸の思いで痛恨の極みでした。

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この記事を書いた人

たんす屋創業者
1954年 京都生まれ。1979年 慶応義塾大学卒業後、祖父が京都で創業し、約80年の歴史を持つ老舗呉服卸店 東京山喜株式会社入社。1993年 代表取締役社長に就任。1999年 リサイクルきもの「たんす屋」事業を立ち上げ、それから僅か7年弱で100店舗を超えるまでに成長を遂げる。2001年 同事業にて第11回ニュービジネス大賞 優秀賞を受賞。2006年 商業界より『たんす屋でござる』を出版。2020年4月 コロナウイルス感染拡大に伴った緊急事態宣言発令の影響もあり、民事再生法の適用を申請。同年9月にまるやま・京彩グループにたんす屋事業を譲渡。現在はまるやま・京彩グループの顧問を務めている。

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