「後継者」のおわりに | 後継者

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2023年10月20日

昔の話をするようになったら、人生終わりだと思っていた。

約40年前に市場規模のピークを迎えてから、一度たりともリバウンドすらせずに右肩下がってきた産業に飛び込んでからというもの、とにかく物量が多かった話、俺の武勇伝、どこそこが凄かった話などを酒の席でも昼間の商談でも聞かされ続けて、辟易していたのだ。

しかもほとんどの場合において、その成果はお前の力は全然関係無いだろ、たまたま業界が盛り上がっていた時にその場に居ただけじゃねぇか。とか、その時に主役となっていた人たちも、確かに能力はあったと思うけど、時流が味方した側面は大きい。シンプルに人口ボーナスの恩恵を受けただけでしょ、と心の奥底から思っていた。

創業者である私の祖父の昔を知る人からは、お祖父さんは当時、儲かりすぎて節税のことしか考えてなかったと思うよという話を聞かされた時は空いた口が塞がらなかったものだ。何処に行ったんだよ、その儲かった金は。何でロクに資産も無いのに借入金だけ大量に残してんだよ!とね。

そういう自分が昔話をこれだけ長ったらしく、且つあけすけに書き記してしまった。

書き残しておきたかった理由は色々あるが、やはりメインは現在進行形で戦っている後継経営者、もしくはこれから後継経営者になる可能性がある人に向けてなのだと思う。

実際に後継者になるという意思決定は本当に慎重にして欲しいと思っているが、自分がやらない限り会社は潰れる状況で逃げる奴は人間の屑だ。子供の頃、良い思いをしたのか、そうでもないのかは別として、自分が生まれてからご飯を食べて何某かの教育を受けさせてもらったのはその会社のおかげなのだ。

人生において、借りは、返さねばならない。
頭は悪いが、筋は通すという人間は嫌いではない。
というか、自分がそうなのだろう。
そういう人たちに、しくじり先生的な意味でも何でも良いから、少しでもヒントになればと願う。

インサイドストーリー「並行する世界」

タラレバ話を長々と書き記すことに抵抗はあるが、全てが終わった時に脳裏を過ったのはこういう話であった。俺の行動は全て正しかった!というようなことが言いたいわけではなく、一つ一つの行動や心の持ち方、態度、決断、行動など、全てが繋がっていて、全てが結果に結びついていってしまう。それが、経営者という仕事の面白いところでもあり、恐ろしいところでもあるということを伝えたい。

第1話 内定辞退
そもそもで言うと、私がこの時に入社を決断していなければ破産、もしくは良くて民事再生だったであろう。誰がその後をやったのかという問題はあるが。

第2話 事業承継
ガンという病気のおかげで、一定の準備期間を得ることが出来た。その期間に詰め込んで準備を進めることが出来ていなかったら、信用不安を押さえ込めずに潰れていた可能性がある。

第3話 社長就任
これは上記と逆の話だが、早い段階で事業承継が出来ていなかったら権力争いで潰れていた。早く死んだから大変だったのだが、長く生きていても上手くいかなったであろうという皮肉。

第4話 被告人
それまでに誰も手を付けなかったアンタッチャブルも含め、全て片付けておいたことで後の事業売却が可能になった。多動の傾向がある私は、とにかく気になったらすぐに対処しないと気が済まないのだ。そういう気質が、功を奏した。

第5話 リストラ
この時に経営幹部を若手に刷新していなければ、既存事業の延命に注力するだけで、新規事業に取り組むという風土は生まれなかったし、後に成功する事業を生み出せることもなかったであろう。また、営業部門以外をスリム化する方向に舵を切っておいたことは絶対に正解で、この辺りを実現出来ていなければそもそも2017年とか2018年まで会社は存続していなかったであろう。そしてまたもやではあるが、この辺りがスリム化されていなければ事業売却はスムーズに行かなかった。

第6話 たかり
早い段階で世襲企業にまとわりつく有象無象を片っ端から排除していたおかげで、事業売却が可能となった。実際に事業売却するとなってからここら辺を片付けようとしても絶対にゴネてくるから、早目に処理しておくのが正解。

第7話 はじまり
誰に何を言われてもガンガン採用に突き進んだ結果、利益が出る新規事業を生み出せることが出来たし、利益が出る事業があったおかげで祖業の売却と特別清算が可能となった。

第8話 2勝7敗
これだけ失敗したから最後に2事業当てることが出来たし、それが無ければ事業の売却と特別清算が出来なかった。

第9話 不渡手形
会社を潰しかけたけど、ここまで財務経理にどっぷり浸かっていたことで後の事業売却と特別清算の画を描くことが出来たし、人員の入れ替えは会計処理をきれいにするかしないかの方針争いという側面もあった。ぱっと見は悪い数字になっても、決算時に操作出来る数字を経営レベルではゼロにまで持って行っていたことで、事業売却の際のデューデリジェンスがスムーズに出来たのだ。

第10話 ブレイク
(何回目か分からなくなってきたが)この事業が無ければ、祖業売却も特別清算も無かった。

第11話 ゴールドラッシュ
この事業が祖業から切り離す際の新規事業としてはそれなりの売上になっていたことと、店舗を出店して対面でビジネスをするという分かりやすさから、見た目のインパクトもあったことで祖業の売却へと繋がりやすかった。

第12話 MBA
一時だけのかりそめのような時間であったが、ここで得た確信が後の意思決定に全て反映されたし、事業は元より、会社そのものの変化のスピードにターボがかかったのは間違いない。

第13話 事業売却
ここで売ってなかったら、特別清算は無い(何回目?)。

第14話 特別清算
上記の全てのピースが、何一つ欠けてもこれは実現出来なかったという、とても危うい積み上げの上で成り立った奇跡、と言っても良いだろう。

おまけ

これから後継経営者に「なる」人に向けて事前にチェックすべき内容や、実際になってから留意すべき点について書き記しておこうと思ったが、ちゃんとやるとこの「後継者」ぐらいのボリュームになることは必至なので、おまけ程度に箇条書きで。またいつかタイミングが来たらこれを元に書くかもしれない。

前提:簿価ベースではなく、時価ベースで債務超過かどうかは絶対に調べる。これは比較的容易に出来る。債務超過だったら継ぐなとか、債務超過じゃなかったら継ぐとか、そういう話ではなく、現状がどうであるかを正しく認識出来ないと意思決定など出来ない。事業が黒字かどうかは、余程専門的な知識や経験が無ければ、入社して中をほじくり返さないと分からない。節税目的で利益を少なく見せているケースもあれば、銀行融資を継続させるために利益を水増ししているケースはざら!普通にやっとる。

1.株式は個人で66.7%以上の保有が必須。上場企業以外でこれを得られる目処が立っていない場合、相当ハードな戦いになることを覚悟すべし。
2.おじさんおばさんには辞めてもらう。言わずもがな。放置しているとその息子や娘も入社を希望してくるよ!
3.古参の幹部も引退時期を明確に。これは先代が責任をもってやること。何なら自分が引退する時に一緒に引退させるべき。
4.先代の外部ブレーンとの付き合いは、タイミングを見ながら入れ替えるなり継続するなり是々非々で良い。切るありきではなく、自分で判断出来る物差しを持つことの方が先。
5.会計処理を明確に。「絶対」に粉飾決算はある。上場会社でもあんだけやらかすぐらいですから、中小企業で無いわけないでしょ。それがどういう目的で行われていて、どういう意味があるのかということを把握するのが大事。
6.修行の有無はケースバイケース。でも、外で働かずに親の会社に入るって、丸腰で戦場に行くみたいなことだから凄く怖いことですけどね。
7.そもそもの適性の有無の判断。もの作りの工房でもの作りが嫌いな人は後を継ぐべきでは無い。でも、それがメーカーなら経営力が問われる。あと、そもそもその商材を見るのも嫌いとかだと厳しい。
8.先代の人間関係を引き継ぐ必要は無いが、誰とどういう付き合いをしていたのかの把握は重要。後々に活きてくる。
9.先代が死んでからが本番。自分の実力が試される。亡くなって2〜3年が経つと守ってくれていたオーラが無くなっていくのが分かるよと、私の場合と同じで先代が早くに亡くなり若くして会社を継がれた先輩がよく言ってくれていたが、正にその通りだった。
10.能力があっても、適性があっても、負ける奴は負ける。最後は運も重要だが、運を引き寄せられる行動・振る舞いをしているか、みたいなスピリチュアルっぽい話だけど、割と単純な引き寄せの法則みたいなことは大事。そういうことを疎かにしていた人たちは散っていった。

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この記事を書いた人

サクセッション 編集長
1981年 京都生まれ。2006年 立命館大学卒業後、祖父が創業して父が経営していた着物メーカーに後継経営者として入社。父の急逝に伴い、2007年に代表取締役に就任。2017年に祖業を事業譲渡。その後、自身で立ち上げた事業も2018年に事業譲渡後、官民ファンドであるREVICの再チャレンジ支援によって法人は和解型の特別清算処理を行った。2018年に事業承継・レンタルビジネス・ECコンサルティングを手掛けるDEPLOY MANAGEMENT株式会社を設立し、現在までに多数のクライアントの課題解決を手掛けている。

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